はじまり

代表者インタビュー!

2018年7月、北上市を拠点に「だれも孤立しない地域をめざして、多様なカタチの居場所を模索・創出する」をミッションに掲げ、活動をスタートした「途良や」。4年目に突入した2021年9月末には公式サイトもオープン!  というわけで、この機会に「途良や」の生みの親であり、その活動をずっと支えている二人にインタビュー。「途良や」誕生の背景と現在までの取り組みを振り返ってみました。どうぞ、ご覧ください。

途良や代表

藤村千紗:北上市在住。さまざまな仕事を経て8年前から相談支援の仕事に。そこで木立千賀と出会う。

木立千賀:盛岡市在住。長く福祉関係の仕事に携わり、現在は相談支援の仕事に。そこで藤村千紗と出会う。

2018年に北上市で起きた事件……。8年前の約束を、今こそ。

・二人の出会いは「相談支援」というお仕事がきっかけだそうですが、どんなお仕事ですか?

千紗:全国を対象に、社会的に孤立してしまいそうな方たちや孤立してしまっている方たちを 多角的に支援するための相談対応が主な仕事です。

・そんな二人が「途良や」をはじめようと思ったきっかけは?

千紗:2018年に北上市で起きた幼児虐待死の事件がきっかけです。私たちの仕事は全国を対象にしていて、それはそれで重要な仕事ですが、一方でもっと地元に根づいた関わり方、生きづらさを抱えていたり、社会とつながりが持てずに苦しんだりされている方に寄り添う活動を「何かできないか」とずっと二人で話していたんですよ。ただ、私たちも毎日の仕事でいっぱいいっぱいで、日常の仕事とは別に新しい取り組みを個人的にスタートさせるという余裕がなくて……。そんなときに地元で幼児虐待死事件というものが起きて、「やっぱりやらなきゃだめだよね」という話に二人でなって、「やれるところからでいいから、まずはやってみよう」となったんです。

木立:当時、高校生が駅で自死するという事件もあって、そういうことが重なって「やっぱりやらなきゃ」となったんだよね。

▲「途良や」の代表を務める藤村千紗(左)と木立千賀(右)。

「だれも孤立しない地域をめざして、多様なカタチの居場所を模索・創出する」というミッションを掲げていますが、「途良や」を立ち上げた2018年7月当時、北上市でそういった活動をしている団体などは?

千紗:高齢者の方向けや子ども食堂のような取り組みはありましたが、私たちのように悩みや生きづらさを抱えていながら、でも誰にも相談できずにいるヒトなら誰でも受け入れるというのはなかったですね。

・「途良や」を立ち上げる前に、周りに相談などは?

千紗:相談はしました。福祉関係の仕事に携わる方たちにはすぐ理解もしてもらえて、「社会資源をつくってくれてありがとう」というような感じで応援してくださる方が多かったです。ただ、一般の方は「居場所づくり」という言葉も今ほど一般的にはなっていなくて、対象も限定していないので、「誰が来ていいの?」「何をやるの?」「居場所って?」という感じで「全然わかんない」という声もいただいたりしました。

木立:だから、わかってもらえなくても「まず、やってみよう」だったよね。

千紗:まずは「途良や」に来てもらって、それで「あ、こういう感じなのね」と思っていただいて、その空間が「合う」と思った方はまた来てくれるだろうし、「合わない」と思った方は来なくなるだろうし。「それはそれで仕方がない。それでいい」ということで、はじめたんです。

支援する側・される側の壁を超えて。いつもの日常のなかに……。

・スタートするにあたって、大切にしたことは?

千紗:福祉色を出さないようにすること。プログラムをつくらないこと……。

木立:あとは私たち自身も楽しいと思える、ずっと居たいと思える場所をつくること、ですね。

・「福祉色を出さない」とは?

千紗:例えば、「相談支援」というような言い方をすると、どうしても「支援する側・支援される側」という関係になってしまいます。でも、私たちは「途良や」が参加者さんの日常の一部になってくれたらうれしいと思っているので、「支援する側・支援される側」ではなく、お互いが対等で、変に気を遣わないでいられる空間をつくりたかったんですよ。

木立:プログラムについても、「途良やで今日は何をやります」というような決め事は一切しません。「今日何をやるか」、それを決めるのは今日「途良や」に集うヒトたち。本を読んだり、おしゃべりしたり、音楽を楽しんだり、ぼ~っとしたり、それぞれが好きなことをして過ごしながら、そこで生まれる時間をみんなで共有することが大切だと思うんです。

千紗:「場」は、そこに集まったヒトたちでつくるのが自然だと思うんですよね。

木立:そうだよね。

千紗:あと、「私たちが居たいと思うような居場所をつくる」というのは、純粋に私たちが楽しいと思えないと続けられないと思うから。

木立:無理に笑ったり、変に気を遣ったりして、私たちが疲れるようだったら続けられないもんね。

千紗:そうなんだよね。そこは意識しました。ただ、ふだんは相談支援をしているので、職業柄やっぱり寂しそうにしている方を見れば放っておけなくて声かけちゃうし、みんなで会話しているときも話が止まると「回さなきゃ」と思うし(笑)

木立:確かに。それはもう職業病だね(笑)

他愛ない会話のなかでポロッとこぼれる悩みに、みんなで寄り添う。

・参加者さんたちの反応は?

千紗:どうなのかな?  改まって聞いたことはないですが、2018年7月からスタートして3年過ぎましたが、誰も来なかったということは1回もありませんでした。もちろん「途良や」が好きで毎回参加してくれる方もいるし、1回だけ参加して来なくなる方もいて……。でも、それはいいことですよね。他にお気に入りの場所が見つかったのなら、別に「途良や」じゃなくてもいい。選べる場所が街の中にあることはいいことで、そういう選択肢を増やしていくことが私たちの目的でもありますから。

・その日のプログラムが決まってないとのことですが、みなさん、どのように過ごされていますか?

木立:結構、音楽好きの方が多い印象ですね。

千紗:あと、おしゃべりが好きですね。

木立:そうそう。参加者さんの誰かが楽器を演奏してくれて、それで感想をみんなで言い合ったりしながら、いろんな話に話題がひろがっていったり……。

千紗:そこで誰かがポロッと話してくれた悩み事に対して、みんなで一緒に考える……。しかも“自分事”のように、みんなでその悩みについて考えるということが、「途良や」ではよく起きますね。

木立:具体的にその悩みを「解決しよう」というよりも、みんなでその悩みを「共有し合おう」という感じだよね。でも、それが逆にチカラになるというか……。

千紗:だから私たちの役割は、“調整役” なのかなとは思っています。いろんなヒトが“自分事”のようにその悩みのことを考えて、いろんな意見を出してくれるんですよ。でも、やっぱり人間なので、時には自分の意見を主張したくなったり、「これが正しいんだ」と決めてしまいたくなったりします。でも、「途良や」はそこでフラットにいないといけない。ですから、何が良くて何がダメというのは決めず、「そういう考えもあるよね。でもこのヒトが今こういう立場にいて、こういう考えになっていることについてはどう思う?」というような、いろいろな立場での意見を出し合ったり、それに対して耳を傾けたりするような、そういう場の調整は私たちの役目だし、そこは気をつけているよね。

木立:そうだね。

コロナ禍でできること。会えないからこそ、「手軽に」。

・当初は月1回「途良やものがたり」というカタチでリアルに集う場がありました。しかし、コロナになってZOOMやLINEのオープンチャットを使った居場所づくり「ネッとらや」がメインに。参加者さんたちの反応は?

千紗:やっぱり「対面で会えた方がいい」というのは、みなさん本音としてあるようですが、コロナなので我慢しているという感じですね。

・その中で、どういった点を大切にして活動されていますか?

千紗:コロナになって今後の「途良や」の在り方を模索していくなかでZOOMも試したりしましたが、最終的にLINEのオープンチャットに落ち着いた理由が、「手軽に参加できる」ということでした。ZOOMだと着替えなくちゃいけないけどLINEだと着替えなくてもいいし、布団の中でもできる(笑) 別に無理してコメントを入れなくてぼんやり眺めているだけでも、何かをしながらでもオープンチャットなら参加できるんですよね。どんどん対面での集いが難しくなるなかで、それでもつながりをつくるためには、そういう「手軽さ」も大事かなと思って取り組んでいます。

木立:私ももちろん対面がいいんですが、でもLINEはLINEでヒトの顔は見えないけど「心と心のパイプがつながっているな」とは思っていて、これはこれでいいんだと密かに思っています(笑)

千紗:確かに。LINEは顔が見えないで文字だけだからこそ、余計な情報が入ってこない分、素の自分で勝負するしかない場所だよね。その分、対面とはまた別の意味でつながりを実感できるというのはあるかも。

ヒトからヒトへ。ヒトから街へ。つながる「途良や」の想い。

・対面による居場所づくり「途良やものがたり」からコロナになって「ネッとらや」へとシフトし、現在に至りますが、3年の活動を振り返ってみて感想は?

千紗:「できることからやってみよう」ということで手探りでスタートした「途良や」ですが、振り返ってみると初回から今まで、嫌な思いをしたことが1回もないんですよ。

木立:本当だよね。もともと「私たちが居たいと思える場所をつくろう」ということでスタートしたわけですが、千紗さんもよく言っているけど、「私たち自身も居場所を求めていて、ヒトとつながっているという感覚を持ちたいからやっている」というのが私たちの根っこにもあるんですよね。だからこそ、参加者さんたちの気持ちもわかるというか、居心地のいい距離感でお互いがつながっていられるのかなとも思います。

千紗:それと、やっていて一番うれしかったのは、今10代の子も「途良や」に参加してくれていて、その子は北上市に住んでいるわけではないんですよ。でも「途良や」を好きでいてくれて、まだ誰とも話したことはないんですが、私とはLINEで話してくれて、その子が自分でも地元に「途良やのような居場所をつくりたい」と言ってくれたんですよ。「途良や」は私たち二人だけではじめた取り組みで、だからその人数で全部の地域はまかなえないし、そうしようとも思っていなくて、「途良やのこういうところがいいよね」と思ってくれたヒトがそれぞれの地域で、あるいは私たちと同じように自分のできる範囲で取り組んでくれて、そういうヒトや場所が増えていってくれたら、すごくいいなと思うんです。

・この1月に「あったかいわてプロジェクト~地域みまもり応援募金~※」(主催:赤い羽根共同募金)の対象団体に選ばれました。それにチャレンジした狙いは?

※赤い羽根共同募金では地域の生活課題に取り組む団体を募集。そこで選ばれた団体を応援することを目的に募金を実施し、寄せられた寄付金はすべてその団体の活動に充てる取り組み。

千紗:「途良や」の活動をしていくなかで、月1回の開催をすごく心待ちにしているという参加者さんの声があったり、私たち自身も月1回しかできないということにもの足りなさを感じていて、もう少し回数を増やしたいという想いも重なって……。でも、私たち二人だけではどうにもならないので、だったら「協力者を増やしていこう」ということで応援募金に挑戦しようと思ったんです。

木立:日程を調整したり、スタッフとしてその場所に居てくれたり、そういう仲間が増えると運営するうえでの選択肢もひろがりますから。

・挑戦してみた感想は?

千紗:募金をいただいたお陰で、新しいスタッフも増やすことができました。とはいえ、まだコロナ禍なので「ネッとらや」が中心ですが、9月は月1回ではなく回数も4回に増えます。それに、これはコロナの状況を見つつですが、新たな取り組みとしてアウトリーチによる居場所づくりもスタートする予定です。

・アウトリーチとは?

千紗:もう少しひとりひとりのニーズに寄り添って、場所を限定せず、その方の行きたい場所に行ってみたり、やってみたいコトを一緒にやってみようという取り組みです。私たちが外に出ていくことで、今までとは違ったアプローチでヒトとのつながりを実感できるような取り組みができたらいいなと思っています。

みんなが集まる場所。いつでも帰れる場所。

・最後に「途良や」という名前について。こちらは、映画『男はつらいよ』でフーテンの寅さんが帰る場所・葛飾柴又にある団子屋さん「とらや」から命名されたそうですが、二人とも寅さんファンなんですか?

木立:千紗さんがファンなんだよね。

千紗:そう(笑)

木立:私はファンというほど映画は観ていませんが、以前の上司が大好きで、何かにつけて「第何作目のあれが傑作だから、絶対観なきゃだめだぞ」というような話をしていたので、寅さんはすごく身近な存在なんです。

・映画の中の「とらや」は寅さんがいつでも帰ってこられる場所であり、妹のさくらをはじめ、おいちゃん、おばちゃん、タコ社長など、いろいろなヒトたちが集まってワイワイガヤガヤと過ごしているイメージです。「途良や」もそのイメージですか?

木立:そうですね。私は「井戸端」のイメージを持っていて、昔は暮らしの中心に井戸があって、必ずみんながそこに来るじゃないですか。その井戸の水を使わないと生きていけないわけだから。そこにみんなが集まって、「ああでもない、こうでもない」とワイワイ言いながら、助けたり助けられたり、時にはケンカもするけどいつの間にか元通りになって……。そういうみんなが必ず集まる場所って、実はヒトが暮らしていくうえで必需品だと思うんですけど、残念ながら現代にはその「井戸端」がなくなっちゃった。だから、そういった場所ができたらいいなと思っていて、それが寅さんの「とらや」の世界感とも重なるんですよね。

・当て字が珍しいですね。どのような意味があるのでしょう?

千紗:なんなんですかね。解釈は自由です(笑) 「中途半端で良い」と思うヒトもいれば、「途方に暮れても良い」と考えるヒトもいて……。でも、みなさん気に入ってくれているみたいだし、寅さんみたいにフラッと来ていただければ、それでいいのかなと思っています。

◇参加者さんの声に耳に傾ける対談はこちら! ▶▶▶ 参加者さんインタビュー!

◇北上市でがんばる仕事人を応援する「きたかみ仕事人図鑑」にも代表者インタビューが登場! そちらでは「ヒトとつながる」ことを大切にする二人の想いの原点に迫る! どうぞ、ご覧ください。 ▶▶▶ きたかみ仕事人図鑑の記事へ!

(おしまい)